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小児の防護

小児の放射線影響

 一般的に被ばく時年齢が低いほど放射線リスクが高いことが原爆被爆者の寿命調査(LSS: Life Span Study)により明らかになっています。 (https://www.rerf.or.jp/library/archives/lsstitle.html)下表に示すように、被爆時年齢が10歳若くなると全固形がん死亡リスクが約29%増加することがわかります。

表:主ながんに対する過剰相対リスク(ERR: Excess Relative Risk, 放射線被ばくに関連した健康影響の発生率が自然発生率に比べどのくらい過剰にあるかを示す量。1の場合、自然発生率の2倍になることを意味する。)
( K. Ozasa et al, iation Research, 177(3), 229-243 (2012))
   性平均ERR/Gy
(95%信頼区間)
ERR女性/男性比
(95%信頼区間)
被ばく時年齢10歳増加当たりのERRの変化
(95%信頼区間) 
 全固形がん  0.42  (0.32, 0.53)  2.1  (1.4, 3.1)   -29%  (-41%, -17%)
 食道  0.6  (NA, 1.64)  4.3  (0.54, >100)   35%  (-28%, 184%)
 胃  0.33  (0.17, 0.52)  3.7  (1.3, >100)  -18%  (-47%, 20%)
 結腸  0.34  (0.05, 0.74)  1.4  (0.39, 6.6)  -3%  (-51%, 63%)
 肝臓  0.38  (0.11, 0.62)  1.6  (0.43, 7.9)  -8%  (-62%, 42%)
 胆嚢  0.48  (0.12, 10.2)  0.42  (<0.001, 2.4)  -27%  (-76%, 40%)
 胚  0.75  (0.51, 1.03)  2.7  (1.3, 6.8)  -7%  (-35%, 29%)
 乳房  0.9  (0.30, 1.78)  -  -  -45%  (-67%, -17%)
 膀胱  1.19  (0.27, 2.65)  1.7  (0.2, 9.0)  -2%  (-62%, 92%)
 子宮  0.2  (NA, 1.30)  -  -  -22%  (-96%, 218%)

下図は到達年齢(Attained age)と1Gy当たりの過剰相対リスク(ERR: Excess Relative Risk)の関係を被爆した年齢ごとに示しています。図からわかるように、被爆後の期間が同じでもERRは被爆した年齢が低いほうがERRが高いことがわかります 。


図:全固形がんに対する到達年齢とERRの関係
( K. Ozasa et al, iation Research, 177(3), 229-243 (2012))


1. 小児の放射線診療

上記に示したように成人に比べ小児の放射線影響リスクは高いと考えられます。しかし、それにより放射線診療による便益が制限されることはありません。 小児においても、医療被ばくの放射線防護の考え方である「正当化」及び「最適化」により放射線診療が行われています。

小児の医療被ばくの特徴として、次の二つが挙げられます。
  1. 体型の小さい小児では、成人よりも低線量のスキャン条件で撮影が行われます。下表は成人と小児のCT撮影条件におけるCTDIvol、DLP( CTのDRLとして用いられる量)を示しています。小児のCTDIvol、DLPのほうが低い値に設定されていることがわかります。

    表:成人CTのDRL
    (標準体型は体重50~60kg、ただし冠動脈のみ50-70kg。肝臓ダイナミックは胸部や骨盤を含まない。頭部は直径16cmファントム、それ以外は32cmファントムでの値。)
    「日本の診断参考レベル(2020年版)」(http://www.radher.jp/J-RIME/
       CTDIvol
    [mGy]
     DLP
    [mGy-cm]
    頭部単純ルーチン   77  1350
     胸部  13  510
     胸部~骨盤1相  16  1200
    上腹部~骨盤1相  18  880
     肝臓ダイナミック  17  2100
     冠動脈  66  1300

    表:小児CTのDRL
    (直径16cmのCTDIファントムによる値。カッコ内は直径32cmファントムによる値。)
    「最新の国内実態調査結果に基づく診断参考レベルの設定」(http://www.radher.jp/J-RIME/
       1歳未満 1~5歳  6~10際 
        CTDIvol
    [mGy]
     DLP
    [mGy-cm]
       CTDIvol
    [mGy]
      DLP
    [mGy-cm]
       CTDIvol
    [mGy]
     DLP
    [mGy-cm] 
     頭部 30  480  40  660  55  850 
     胸部 6 (3)  140 (70)  8 (4)  190 (95)  13 (6.5)  350 (175) 
     腹部 10 (5)  220 (110)  12 (6)  380 (190)  15 (7.5)  530 (265) 

  2. 成人と小児では診療部位や目的が大きく異なります。下図の2006年放射線医学総合研究所が調査を行った日本国内の小児と成人のCT検査の割合を見ると、小児では約7割が頭頸部の検査となっています。


    図:日本国内の小児と成人のCT検査の割合(放射線医学総合研究所、2006年調査)

2. 小児CTの被ばく線量

医療被ばくの中では、CT検査で受ける線量は他の放射線診断時に受ける線量に比べ高いことが知られています。
これは、小児についても同様です。

小児における頭部、胸部、腹部CT検査の患者の実効線量を下表に示します。成人の場合と同じように、CT装置の種類や撮影パラメータ(体格や検査部位などに依存)の違いにより、線量は数倍程度幅があります。
上述したDRL(CTDIvol, DLP)では低年齢の方が低い値に設定されていましたが、実効線量の過去の調査値はわずかながら低年齢の方が高い傾向があります。これは、異なる体型に対して、仮に同じ撮影条件が使用された場合、体型が小さいほど被ばく線量が大きくなることによるものと考えられます。
また、調査当時(以前)は、現在に比べて、体型に応じた撮影条件の調整が十分ではなかったことを示唆しています。 現在では、DRLを使った最適化の必要性が認識され、被ばく線量を可能な限り低減する取り組みが進んでいます。最適化のためのDRLの設定もその取り組みの一つとして行われたものです。

表:小児における頭部、胸部、腹部CT検査の患者の実効線量
(UNSCEAR2008, Table:B17一部抜粋)
検査
プロトコール
0-1歳
実効線量
[mSv]
参考
文献
1歳
実効線量
[mSv]
参考
文献
5歳
実効線量
[mSv]
参考
文献
10歳
実効線量
[mSv]
参考
文献
 頭部CT 1.3-2.3
3.6
6.0
[1]
[2]
[3]
2.5
4.9
[4]
[3]
1.5
4.0
[4]
[3]
1.6
2.8
[4]
[3]
胸部CT 1.9-5.1
1.7
6.3
6.4
[1]
[5]
[4]
[6]
1.8 [5] 2.1
3.6
[5]
[4]
3.0
3.9
[5]
[4]
腹部CT 4.4-9.3
5.3
 
[1]
[3]
4.2 [3] 3.7 [3] 3.7 [3]
[1] Moss M et al. Paediatric and adult computed tomography practice and patient dose in Australia. Australas. Radiol. 50, 33-40, 2006.
[2] Huda W et al. Patient radiation doses from adult and pediatric CT. Am. J. Roentgenol. 188, 540-546, 2007.
[3] Huda W et al. An approach for the estimation of effective radiation dose at CT in pediatric patients. Radiology 203, 417-422, 1997
[4] Shrimpton PC et al. National survey of doses from CT in the UK: 2003. Br. J. Radiol. 79, 968-980, 2006.
[5] Huda W. Radiation doses and risks in chest computed tomography examinations. Proc. Am. Thorac. Soc. 4, 316-320, 2007.
[6] McLean D et al. Survey of effective dose levels from typical paediatric CT protocols. Australas. Radiol. 47, 135-142, 2003.