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胚/胎児の防護

胚/胎児の放射線影響

 細胞分裂が盛んで、分化の進んでいない細胞ほど、放射線感受性が高い傾向にあります。よって、胎児期は放射線感受性が高く、確定的影響(ある線量(しきい値)を超えると症状が発現し、線量の増加とともに重篤度が増す放射線影響)のしきい値は低く、妊婦が被曝した場合には胎児への影響も考慮します。また、この際、線量の考慮に加え、下記の時期による影響の違いについても考慮されます。
  • 着床前期(受精~8日)
    胚死亡 (低LET放射線の100mGyを下回る線量では非常に稀)
  • 器官形成期(着床~8週)
    先天性異常(最大の感受性):小頭症・無脳症・四肢異常など
    奇形の誘発に関して100mGy前後に真のしきい値が存在すると判断される。100mGyを十分下回る線量に対するリスクは予期されない。
  • 胎児期(8週~出生)
    精神発達遅滞(特に~15週):最低300mGyの線量しきい値
    胎児期では、小児期早期被ばく後のリスクと同様に、確率的影響(被ばく線量の増加とともに症状が発現する確率が増加する影響。例えば、発がん)のリスクが最大でも集団全体の約3倍と仮定することが慎重であると考えられています。 

1. 妊娠女性の放射線診療

    • 患者の医療被ばくは臨床に必要とされる意図的なものであり、患者個人に直接的な便益をもたらします。よって、患者への線量を制限することは、患者の診断または治療の有効性を減じる可能性があるため、その線量を制限することは不適切であると考えられています
    • 女性患者の場合、放射線を用いるすべての医療行為に先立って、妊娠しているかどうかを決定し、妊娠中の医療被ばくの可能性と胎児に対して特別の考慮が必要かどうか判断する必要があることを医師及び医療関係者は認識しています。
    • 患者は、医療被ばくによる胎児の潜在的な放射線影響について知る権利があり、医師から受けるインフォームドコンセントによりその医学的手法に同意あるいは承諾をした上でその医療行為を受けることになります。
    • 放射線診断では、ある種の手法(例えば、放射性ヨウ素を用いた核医学診断)を除けば、その手法を行わない母親へのリスクは、胚/胎児への潜在的な害のリスクより大きいと報告されています。
    • 放射線治療の場合、骨盤から遠く離れたがんには、通常、放射線治療を行うことが可能とされていますが、そのためには治療計画の作成に特別な配慮が必要です。骨盤内照射に伴う胚/胎児の高線量被ばくは、発育障害を生じさせる可能性があり、妊娠中に胚/胎児に対して重篤あるいは致死的な結果なしに、放射線治療で適切に治療できることは稀です。

2. 放射線被ばく後の妊娠中絶の考慮


    • 妊娠中絶は多くの要因に影響される個人の意思決定です。 放射線被ばくはその要因の一つになる可能性があります。しかし、胚/胎児への100mGy 未満の吸収線量は、妊娠中絶の理由と考えるべきではないとICRP84で勧告されています。
    • このレベルを超える胚/胎児線量においては、胚/胎児への推定線量の大きさと、結果として生じる重大な害のリスク及び後の生涯におけるがんリスクについて、意思決定を行うことができる十分な情報を、インフォームドコンセント時などを通し、担当医師から得てください。