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改正放射線障害防止法(2017年4月14日公布)について


1. 改正の概要

1.1. 改正の趣旨


2016年のIAEAによる総合的規制評価サービス(IRRS)および2011年の「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」に適合させることを中心に規制が見直され、2017年に公布された。

1.2. 法令名称の変更


核セキュリティによる特定放射性同位元素の防護が法律の目的に加えられたため、名称が変更となった(2019年9月1日より)。
変更前:放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法、障防法)
変更後:放射性同位元素等の規制に関する法律(RI規制法、RI法)

2. 改正内容と医療放射線管理への影響

原子力規制委員会の放射線障害の防止に関する法令改正の説明会資料「法令改正の概要」では、改正内容として下記の項目が挙げられている。
本項では、各項目が医療放射線管理に関係するかどうかを 医療関係あり医療関係なし で表し、関係する場合はその内容について記す。
従事者 は一般の従事者でも知っておくべき項目、主任者は主任者(または実際の管理者)が知っておくべき項目である。

2.1. 報告義務の強化 医療関係あり 主任者


事故時の報告が事業者の責務として追加された。また、法令報告事象に該当するかどうかの解釈については、「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律第31条の2の規定に基づく放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行規則第28条の3の規定による原子力規制委員会への事故等の報告に関する解釈の一部改正について」で詳細な説明が加えられている。

2.1.1. 火災・地震時の報告基準の変更 医療関係あり 従事者


2003年より、一部の使用者は地震・火災時に点検を行い、異常がない場合もその旨を報告することを求められていたが、原規放発第1803076号通知によって2018年4月より下記の通り基準が変更され、報告が必要な事象は限定的になった。

・ 火災の場合
対象事業所:RI・発生装置を取り扱う事業所すべて
改正前:事業所内の火災は全て報告
改正後管理区域内の火災、または、管理区域や線源に延焼の可能性がある火災のみ報告(電話及びFAX)

・ 地震について
対象事業所:特定許可使用者(放射線発生装置のみの使用者を除く)。
医療機関の場合、リニアックのみの場合は対象にならない。
診療用放射線照射装置(10TBqを超える)や血液照射装置などで特定許可使用者になっている場合は対象となる

改正前:震度4以上で点検を実施し、異常がなくても報告
改正後:震度5強以上で点検を実施し、異常があれば報告(異常ない場合は報告義務なし)

2.2. 廃棄に係る特例 医療関係なし


RI法上のRIやRI汚染物を炉規法の廃棄事業者に委託することで炉規法で取り扱えるようになった。
医療機関には直接の関係はなし(廃止時の放射性汚染物は通常アイソトープ協会での廃棄委託によりRI法で処理される)

2.3. 試験・講習等の科目の規則委任 医療関係なし


最新の知見を反映できるよう、定期講習・主任者試験の科目や内容を法律から規則に委任した。また、事故に対する対応が第一種主任者試験の科目として追加された。直接に医療放射線管理への影響はないが、主任者試験について最新の話題や事故への対応などが含まれるようになる。

2.4. 危険時の措置の強化


2.4.1. 危険時の措置の事前対策 医療関係なし


放射線業務従事者に重篤な確定的影響を生じ得るRIまたは発生装置の使用者(数量の極めて大きいRIや大規模研究用加速器)を対象に、対応機関との連携を含む危険時の措置の事前対策を要求する。
RIは放散性と非放散性に分類し1日使用数量が核種ごとに定められた数量を超えるかどうか(複数の核種を使用する場合は割合の和)で判定する。
ただし、遮蔽機能を要する機器の中で常に放散するおそれのないRIを使用する装備機器(ガンマナイフ、血液照射装置)は対象外。
放射線発生装置は、以下が対象。


・ イオン加速器:ビームパワー>0.5kW、エネルギー>100MeV/u
・ 電子加速器:ビームパワー>1kW、エネルギー>50MeV/u
 医療機関の場合:医療機関で扱う装置は全て対象外である。
・ ガンマナイフと血液照射装置は特例で対象外。RALS(192Ir)は<1TBqで基準値は20TBqなので対象外。
・ 加速器は、リニアック、PETサイクロトロンは<20MeVなので対象外。
 粒子線治療用加速器は、陽子サイクロトロンで70W程度、重粒子シンクロトロンで1-2Wなので対象外。

2.4.2. 危険時の情報提供 医療関係あり 主任者


対象:予防規程の作成を要する全事業者
情報提供を実施する組織、責任者、情報提供や問い合わせ対応の方法、内容などを予防規程に明記する。
小規模な医療機関でも許可届出使用者は全て適用されるので対応が必要。

2.5. 放射線防護に関する業務の改善の導入 医療関係あり 主任者


マネジメント層を含め事業者全体の取り組みとして放射線障害の防止に関し継続的に改善を行うことを予防規程に明記するよう要求。

2.6. 教育訓練の時間の変更 医療関係あり 主任者 従事者


放射線業務従事者が初めて管理区域に立ち入る前に受けなければならない教育訓練の時間数が変更された。

改正前
放射線の人体に与える影響 30分
放射性同位元素等または放射線発生装置の安全な取扱い  4時間
放射線障害の防止に関する法令  1時間
放射線障害予防規程  30分

改正後
放射線の人体に与える影響  30分
放射性同位元素等または放射線発生装置の安全な取扱い  1時間
放射線障害の防止に関する法令および放射線障害予防規程  30分
この最小時間数は、使用の目的および方法が限定的な放射性同位元素装備機器又は放射線発生装置を1台しか使用していない事業所を念頭に定められており、実際の時間数は事業所ごとに取り扱う内容に応じて十分な時間数を設定するよう求められている。

2.7. 記帳項目の見直し 医療関係あり 主任者


教育訓練の時間数、管理区域の一時的解除時の測定・確認した者の氏名が記帳項目として追加された。装置の入れ替えなどで一時的に解除する場合に適用される。

2.8. 事業者責務の取り入れ 医療関係なし


事業者が業務の改善や教育訓練の充実など安全に関する自発的な取り組みを行う責務を負うことが明示された。

2.9. 法律名の変更及び法目的の追加強化 医療関係なし


特定放射性同位元素の防護が法律の目的に追加された。
これに伴い、法律名称が放射性同位元素等の規制に関する法律に変更された。

2.10. 防護措置(セキュリティ対策)の強化医療関係あり 主任者 従事者


核種ごとの数量によって防護の区分を設定し、区分に応じた防護措置を講じることを求める。
防護措置の内容は、侵入の「検知」、侵入や盗取の「遅延」、通信やマニュアルなどの「対応」、アクセス規制などが含まれる。
対象施設は特定放射性同位元素防護管理者を選任し、防護規程を届け出る。
医療機関の場合:血液照射装置、ガンマナイフ、小線源治療装置が該当する。

特定RI防護関連の用語:
・ 防護管理者:事業所で1人以上専任。要件として講習を受講する必要あり。
・ 防護従事者:防護の業務に従事する者。防護管理者、各部署の管理者、警備員等が該当。
・ 防護区域常時立入者:正当な理由があり防護区域に常時立ち入る者。ガンマナイフや小線源治療を行う技師等が該当

2.11. 予防規程の記載事項の明確化 医療関係あり 主任者


法改正により予防規程に定めるべき内容が追加されたのを機に、「放射線障害予防規程に定めるべき事項に関するガイド」が定められた。予防規程の作成(変更)にあたっては、このガイドに則り各事項について不足なく記述する必要がある。

3. 医療機関で求められる対応

3.1. 予防規程・教育訓練の内容の見直し


新法令に準拠した予防規程への変更は2019年8月までに行われているが、教育訓練については旧法令と同じ時間数にしている施設も多いと思われる。

3.2. 特定RI対応


特定放射性同位元素の防護については、防護管理者の選任届出を2019年9月1日から30日以内に行う。また、防護規程を2019年9月1日から3ヶ月位内に提出する。

4. 参考資料


放射性同位元素等の規制に関する法律
・放射線障害の防止に関する法令改正の説明会資料:
  ・ 法令改正の概要
  ・ 放射線障害予防規程について
  ・ 報告義務の強化について
平成30年度医療放射線安全管理講習会(第66回) 教育講演 放射線安全規制の改正に伴う医療機関が備えるべき事項