医学物理学とはどのような学問であるか
日本医学物理学会
医学物理学とは、物理工学の知識・成果を医学に応用・活用する学術分野です。
医学物理学が他の物理学の分野と異なる点は、医学・医療への貢献を通じて、人類の健康に寄与する学問であることです。
医学物理学には以下の領域があります。
- X線、磁気共鳴現象、超音波などを用いて病気の診断をするためのX線撮影装置、CT、MRI、超音波診断装置などの装置開発、画質改善、被ばく線量と画質の管理などにより、人類の健康に寄与する物理学(診断物理学)。
- 放射線同位元素を使って病気の診断や治療をする、SPECTやPETなどの核医学診断、アイソトープによる内用療法などに関与し、装置開発、画質向上、被ばく線量と画質の管理などにより、人類の健康に寄与する物理学(核医学物理学)。
- X線や粒子線などの放射線を利用してがんを治療する放射線治療や温熱、集束超音波などを利用するがん治療において、装置開発、物理学的線量分布の最適化、治療の物理的技術的品質管理などを通して、副作用を抑え効果的にがんを制御することをもって、人類の健康に寄与する物理学(治療物理学)。
- 医学利用における放射線の害を最小限に抑え、人類の健康に寄与する物理学(放射線防護・安全管理学)。
- 上記1.-4.の基礎として、放射線計測法の開発、放射線の生物作用の物理・化学的初期過程の研究、画質改善や治療最適化に必要な逆問題などの処理法の開発により、人類の健康に寄与する物理学(基礎医学物理学)。
また、上記以外にも物理学の方法と物理工学の知識・成果を応用し、診断・治療の発展に貢献することにより、人類の健康に寄与する領域を積極的に取り込んでいきます。
医学物理学は、放射線を用いた診断・治療が医療の中で大きな役割を担い、そこに物理工学が多大に貢献する中で形成されてきました。X線の発見とその医学利用に始まり、CT装置やMRI装置、PET装置、光子線治療・粒子線治療装置などの開発や、それらの高精度化を追求する研究・開発は医学物理学によるものです。
例えば、CT装置は、1970年前後に発明され、40年たった現在も継続的な研究開発が行われ、高精度化が追及されています。そして今日までに達成されている画像には目を見張るものがあります。放射線治療に関しては、最近10年程の新しいX線治療装置や粒子線治療装置など、線量を患部に集中させる急速な高精度化が達成されています。
これらの発展は絶え間なく継続されており、この発展を支える学問が医学物理学です。
機器の開発から、その利用法に関する考察と管理、臨床での結果に関する物理的な評価など、医学物理学の領域は広く、医学・医療の発展のために、今後ますます重要となる学問分野です。
日本医学物理学会では会長の諮問により「医学物理学とはどのような学問であるか」について主として教育委員会において検討を重ねて参りました。このたび同委員会からの答申を受け、理事会の審議を経て平成22年5月20日別添の通り「医学物理学とはどのような学問であるか」が当学会の見解として理事会決定されました。